自治体のダウンサイジング成功のカギは発想の転換と「思い切り」

 

少し前ですが、このような記事を見かけました。

クラウドへ移行迫られる自治体、増税再延期で政府のコスト削減圧力高まる
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/061500594/?ST=govtech
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消費増税の再延期で、自治体の情報システム関係者の間には緊張感が漂い始めて
いる。財政健全化目標を維持したまま、1億総活躍プランの各種施策を実施するため
に、厳しい歳出絞り込みが予想されるからだ。自治体の情報システムも、そうした
コスト削減のターゲットになっている。
実際に自治体にITアドバイザリーサービスを提供している弊社としては、「もうちょっとやりようがあるんじゃないか」との想いを持っているので、今日はそのあたりを整理してみたいと思います。

 

総務省が自治体に勧めている対策は大きく分けて二つ、
・クラウド化(というか共同利用)
・汎用機からのダウンサイジング
です。

目的はただ一つ、
・コスト削減
のみです。

とても判りやすいですね。

もちろん、発注側の自治体のコスト削減=受注側のベンダーの売り上げ低下ですから、各ベンダーも大変だと思います。
(国産大手の某社は自治体部門の業績が悪化したようですし・・・)

ただ、「(品質を担保したうえでの)コスト削減」を大目標とした場合、
・クラウド化
・ダウンサイジング
それぞれの取り組みについては少し疑問も残ります。

 

■クラウド化
自治体の基幹システムをクラウド化すれば、コストが平均30%低下する、という目論見があるそうですが、
・複数の(規模の似ている)自治体をまとめて一括受注でき、
・自治体ごとに異なるカスタマイズ要望や運用の差異をクラウド(共同利用)の名のもとに抑制
できるのであれば、構築費用の30%OFFは、営業的な値引きにより達成できます。

実際の事例でも、データセンタの中は、自治体ごとにサーバが並んでいるだけ、というものもあるくらいですから、まさに「なんちゃってクラウド」です。

ただ、ベンダー間の競争が激化したことにより、副産物もありました。
ベンダーによっては、複数顧客のシステムを単一の環境に統合(ほんとうのクラウド技術の採用)したり、カスタマイズ部分も含めてソースを一元管理(ワンソース)したりなど、実装・運用面での効率化に取り組み、技術的な根拠のある低コスト化を提案しているところも増えてきています。
(それに伴って、Javaで新パッケージを開発するベンダーが増えてきていますね。)

 

今後は、DevOpsの本格導入など、SIサービスをより効率化する取り組みが、(他の業種と比べると遅いですが)増えていけば、より技術的根拠のあるコスト削減が可能になります。
共同利用・共同調達による営業面のコスト削減ではなく、技術的根拠(=実際に消費工数が少ない)のあるコスト削減が、クラウド化の本来目指すべきところです。
(今のところは、ソース管理の導入程度にとどまっていますが)

こういった点を踏まえればクラウド化を主導した国の取り組みは成功したと言えます。
(そこまで見越していたかどうかは疑わしいですが・・・)

 

■ダウンサイジング
汎用機からのダウンサイジングは、他の業種と違い、規模の大きい自治体や官公庁にとってはいまだにホットなテーマです。
ダウンサイジングするとコストが安くなるのは、筐体が安くなるから、でも、技術の違いによるもの、でも無いと考えています。
・優秀な技術者が少なく、技術者自体も少ないこと
が問題の根本にあります。

技術者が少なければ、新たな技術や製品が作られることも無くなりますし(このあたりは最新技術の採用とほぼ同義ですね)、優秀な技術者が新たに参入することもほぼ無いので、設計・実装・運用においてコストが余計にかかります。

また、前述のクラウドやDevOps関連の取り組みが遅れている理由でもあるのですが、大規模自治体の市場は国産大手ベンダーの独壇場で、そういったベンダーは自治体事業部、官公庁事業部など、業種ごとに別会社のように成り立っており、人材の異動も殆ど無いため、余計に他の世界の技術を採り入れにくい(そもそも知らない)、という構造的な問題も抱えています。
(以前、あるベンダーに、他業界では誰でも知っているような国産BI製品の名前を出したところ、その場にいた誰も聞いたことが無い、というケースがありました。ちなみにそのベンダーは、当該製品のプライムパートナーであったんですが・・・)

いずれにしても、汎用機からのダウンサイジングでコスト削減が図れることは明らかなのですが、それが進まない理由は、ベンダー側が市場を死守したいから、というもの以外に、発注者側である自治体の考え方にも問題があると思います。
「品質」に対する考え方です。

 

汎用機の場合、構成する技術の多くをベンダーで保有しているため、信頼性が高い、と一般的に言われます。

ただし、技術者の減少によりそれも危うくなっています。
(以前、汎用機からの移行PJのアドバイザリーをしたケースでは、現行汎用機の調査をするので、数千万単位の調査費をくれ、と言われたことがありました。同一ベンダーでの移行なのに・・・)
このままだとゆでガエル状態になってしまいますね。

 

問題は、発注する自治体の担当者が、品質に対するリスクを取りたくない、と思っていることです。

自治体や官公庁の場合、担当と言っても数年経てば人事ローテーションで異動してしまいますから、自分の責任ではやりたくないという力が働き、「現状維持」となります。
お金を掛けて至れり尽くせりのサービスをベンダーから受けていますから、わざわざ苦労をしてコスト削減に取り組むモチベーションが沸く担当者は稀です。

冒頭の記事は、そこを解決する仕組みを総務省が作った、ということなんでしょうね。

 

■品質の担保
ハードウェアの物理的な停止や故障などの問題もありますが、今の基幹系で圧倒的に多い障害は、「処理間違い」です。
汎用機が利用されるケースが多い税系などは特にその傾向が顕著です。
なので、汎用機のほうが機械的な信頼性が高いかもしれませんが、業務の品質という意味では本来それほど違いはありません。
(もしあったらもっと問題になってます。)

そもそも、税系の問題の検証を行う際、担当課ではだいたいExcelで検証することが多いのですから、汎用機でもオープン系でもExcelでも本質は同じことなのです。

 

処理間違いには、
・プログラムのミスやSI作業のミスなどのベンダー起因のもの
・入力ミス、確認ミスなど、オペレーション起因のもの
の2種類があります。

前者は、その会社(もしくは事業部)のSI能力によります。
後者は、業務処理の考え方や仕組みによって、つまり担当課の業務能力によって担保することができます。

本当に品質を担保したければ、SI能力の高い会社とともに、品質担保の仕組みを組み込んだ業務処理を作り上げるべきです。
そのためには、既存の国産大手ベンダー以外の、新しい会社と付き合ってみる、という思い切りが欠かせません。

ちなみにダウンサイジングだからといって、オープン系のパッケージを採用しただけでは、コストの削減はできますが、品質の担保が確保できるかどうかは不明です。
(もちろん、よいパッケージをたまたま採用できるかもしれませんので、断言はできませんが・・・)

まだ内製を行っている自治体も残っていますから、そういった団体から新しい価値観で取り組みが始まることを期待しています。

 

既存の国産大手ベンダーとしか付き合いも無いでしょうから、これまでの話はあまりピンとは来ないかもしれませんが、ぜひ弊社のような最新技術と柔軟な業務構築のできる会社に任せてみる、といった思い切りのある自治体や官公庁があればいいな~、と最後に願望を述べてみました(笑)