弊社の用いる方法では、情報化PJを5つのフェーズに分割して考えます。
考慮している課題がどのフェーズのどの部分なのかを把握し、未検討の領域を明らかにすることで、バランスの取れた情報化PJの検討を進めることができます。
以下、各フェーズの概説を示します。
「フェーズ1:計画」
事業の目的や本質を定義し、何のために情報化PJを行うのかを明らかにします。
後に続く4つのフェーズで起こりうるリスクを想定し、「事業スキーム」を決定します。同時に、パートナーとなるITベンダー候補が、リスク負担がどの程度可能であるか、適切なリスク分担と費用分担のバランスを見極めなければなりません。
また、組織内の合意形成、経営層のコミットメントなどの「組織内マネジメント」が非常に重要になります。
「フェーズ2:調達・契約」
リスク分担・費用分担などの事業スキームを定義した「契約条件」を定義し、システムの調達に必要な範囲の「仕様」を作成します。
発注側は技術の専門家ではありませんので、仕様には技術的な側面は必要ありません。実現すべき業務プロセスの詳細を示すことが重要です。EAなどの業務プロセス設計を実施することで、より効果のある仕様が策定できます。
ITベンダーの調達・選定には特に注意が必要です。ITベンダーが自由にプレゼンしても、多くの場合、その後のPJに何の役にも立たない提案となります。(自社の都合の良い部分しか説明しないため)
契約条件や仕様をどのように実現するのか、リスクはどのように負担するのか、(ITベンダーが答えたくないような)詳細な項目を発注側から指定し、契約の前提条件とできるような様式でなければなりません。
ITベンダーよりも発注側が優位であるのはこのフェーズまでですので、ここで如何に詳細な条件を詰めきれるかが、その後のPJの成否を左右します。
「フェーズ3:構築」
QCD(Quality:Cost:Delivery=品質:予算:納期)の3要素のバランスに留意しつつ、予定通りに構築フェーズを進めます。
多くのプロジェクトマネジメントの本が構築フェーズのマネジメントだけをターゲットにしていますが、それはITベンダー側にとって必要なことであって、発注者側にとっての本質ではありません。
このフェーズで発注者にとって重要なのは、業務プロセスが所期の想定どおりに実現できるか、ということです。すなわち、現場とのマネジメントが最重要になります。多くのPJは、現場とのコミュニケーションがうまくいかずに破綻します。
「フェーズ4:運用」
情報化PJの成果を享受する(投資を回収する)最も大事なフェーズです。
構築フェーズまでの検討が不足していると、このフェーズで様々なリスクが顕在化することになり、トータルコストがだんだん増加し、業務の実現度合いが低下してゆくこととなります。
構築フェーズに注目が集まりがちですが、情報化PJのマネジメントが最も必要になるのはこのフェーズです。マネジメント能力を持った人材を継続的に育成し、惰性や油断、慣れ合いによる問題の発生を抑止し続けなければなりません。
また、運用で起こりうるリスクを如何に想定し、契約条件とできるかが、PJ成功のポイントとなります。
「フェーズ5:廃棄・移行」
システムの利用を完了し、必要なデータを抽出し、次期システムへと引き渡します。
一般的にはあまり明示されませんが、PJは次期システムへの移行やシステムの廃棄が成功裏に完了することが重要であり、また一般的にこのフェーズでのトラブルが多く見られることから、特に重視しているフェーズです。
データの抽出・移行は、それが必要になってから検討するケースが大半ですが、本来は計画時点からスキーム・条件を整備し、あらかじめ抽出システムを用意しておくことで、無用なリスクの顕在化を防止すべきものです。