みずほ誤発注裁判から見えるITプロジェクトの深い悩み

 

みずほがジェイコムの誤発注で損失を拡大させた件について、高裁判決が出ました。

みずほ誤発注:2審も東証に107億円賠償命令 東京高裁
http://mainichi.jp/select/news/20130724k0000e020205000c.html

 

この裁判では、

注文取消し機能が動作しなかったバグは軽過失なのか重過失なのかという点、

手動での取り消し手続きを東証が(行えたのに)行わなかった点、

ベンダーである富士通がやったことであれば東証は責任を負わないのかという点、

といった争点がありました。

 

結局のところ、1審と同じく、2つ目の争点で賠償額を決定し、1つ目の争点については「判断できない」となったようです。

「本件バグは重過失とは認められない」—みずほ証-東証判決、あなたはどう見る?
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20130724/493822/?mle

 

2つ目の争点(手動取り消しをやらなかった)について、賠償額が判決のようになるのはあまり違和感がありませんが、バグが「重過失」と言われると、さすがに違和感があります。

軽過失なら賠償責任を負わない、という論調も見られますが、これも違和感があります。軽過失でも賠償責任を負うのは当然ですよね。過失は過失ですし、損害は損害ですから。

 

 

このあたりについては以下の記事にも詳細がありますが、

「適切な程度にバグをなくす」

というのは、ITプロジェクトにおいてはとても悩ましい問題です。

誤発注裁判が改めて問う「バグは重過失か」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130325/465906/?ST=system

 

なぜなら、上記の記事は、IT専門誌の記事なのですが、あまり本質を衝いていないからなのです。

もっと本質を衝いていないのは以下の記事です。

みずほ証券vs東証、泥沼化する裁判が鳴らす警鐘
http://diamond.jp/articles/-/889

“金融システムに詳しいITコンサルタントは「東証のシステム部門に、本当の意味でのシステムのプロがいなかったからだ」と断言する。”

“システム開発を富士通に丸投げしていた”

な~んて書いてありますが、勘違いも甚だしいところです。

 

問題の本質は、そもそも

「様々なバグやミスを適切に発見できるようなレビュー能力を持ったプロ、なんて、IT業界には殆どいない」

ということなのです。

 

 

今回のみずほの件では、特定条件下での処理を書き直した際のテストケースに不備があった、ということが争点となっていますが、コードの記述ミスやテストケースのレビューが出来る人がいれば良いかというとそうではありません。

技術仕様や業務仕様、そもそもの業務の前提条件やシステムの根本的なアーキテクチャなど、最終的にバグと呼ばれるものとなって顕在化するリスクは多種多様です。

また、システム開発時だけでなく(IT業界は開発フェーズの話題ばっかり注目しがちです)、システム構想時や運用時にも、様々なレビュー要素が存在します。

 

これらすべての要因をレビューできるプロなんて、そもそもIT業界では絶滅危惧種です。

そんな希少な方を、東証がスタッフとして雇うことができるでしょうか?もちろんほぼ無理ですよね(笑)

富士通に丸投げが悪のような記述が多いですが、そもそも自前で雇うことが困難である以上、大手IT企業にお願いするしか無いように思います。

 

 

パッケージソフトウェアの時代が長く続きすぎて、スペシャリストと言えば聞こえは良いものの、全体のリスクを見ることができる人材が絶滅しかけていることや、

価値のある人にも無い人にも、似たような「工数単価」という評価でしかお金を払うことができない文化そのものに根本的な問題があるのですが、

もはやそんなことを言ってもただのグチにしかなりません(笑)

 

今の状況で、最善の手を模索するしかありません。

ホントに悩ましい問題です・・・。